『一倉定の経営心得』を読む その2 事業活動の成果

1. 「事業の成果はお客様から得られる」とは

 これは、マーケティングとセールスの大切さを語っているものである。日本の工業界の収益構造はどうであったであろうか。例えばテレビ、本当に顧客のことを考えた商品の開発、価格設定、出来ていたであろうか。その一方で収益の確保もできていたであろうか。
 日本の会社、特に製造業は、「作る」が先行してしまう。3Dテレビは一体何だったのであろうか?普通に考えればわかると思う。まずソフトが対応していない。さらに、家での視聴態度との整合性は取れているであろうか?正面から正対して観ないと効果を享受できない。専用の眼鏡が必要であることも管理のストレスであろう。購入を阻害するであろう。にも拘らず、どのメーカーも一斉に発売した。開発費はそれなりにかかったであろう。
 しかし、売り上げは散々であったと。よりいいもの、より整備されたもの、より完璧なものをひたすら求める一億層職人気質。日本人は、顧客が欲しいものよりも、売りたいものを売るケースが後を絶たない。三条の鍋などもはや工芸品。観賞用とでもいえるレベル。しかしその分値段は高い。品質は八掛け、値段は半値の海外産に太刀打ちできない。

2. 日本企業の性質

 日本の企業には体質的に過剰品質を生み出す性質がある。ものがよくなること自体は悪いことではない。しかし、肝心の競争力の観点が失われている。話、少し飛ぶが、GAFAはテクノロジーの会社のように思われているが少し違う。
 同じ時代にほぼ同じテクノロジーを持った企業は常に存在していた。Amazonなんて最初はただの電子直販の書店である。このレベルであれば、特別なテクノロジーでは全然ない。アップルも唯一無二の大発明はおそらくしていない。マウスのCクリックドラックもアップルの独自開発ではなかったはずだ。マイクロソフトはルック&フィールを限界までアップルに寄せてきた。つまり、GAFAでさえ実は、顧客収益最大化企業なのである。顧客との向き合い方が半端でなかったのである。GoogleとYahooも2000年ごろまでは大差がなかった。

3. 顧客との向き合い方

 顧客との向き合い方に大きな差が出た。Yahooはプラットフォームの中に顧客を囲い込み全てのサービスをプラットフォーム内に集約しようとした。一方Googleは回流願望の特性を加速させる方針を取った。マネタイズをリスティング広告にシフトした。人々の行動を加速させそこに寄り添う仕組みを開発した。これはテクノロジーではない。これはマーケティングである。顧客からの収益源をどう確保するかを徹底的に考えた結果だ。アップルのドライブファクターはスティーブジョブスのマーケティングの能力である。ステーブォズニャックの開発力ではない。松下には、経理から海外事業まで幅広くバックアップした高橋荒太郎がいた。天才技術者と呼ばれた井深大と盛田さんなど。日本の企業にも技術屋さんとそれを支える名番頭との二人三脚があったのだけれども、その文化は根付かなかった。

4. 結語

 これらの人たちがよいものが売れるのではなく、売れるものが良いものであるということを証明してくれたはずなのに、いつの間にか、自分たちが考えるいいものだけが先行してしまっていやしないか。事業の成果はお客様からからしかありえないのである。

おそらく、この真理を確実に追求し実現しているのは、日本では花王ではないか。 了

上部へスクロール