1. 「わが社の赤字は、お客様を忘れたのが原因である」とは
赤字の直接の原因はいろいろ。急激な材料の高騰、あてにしていた大口の取引がキャンセルになった、法令改正で販売検品の費用がかさんだ。様々な原因がある。これらの原因のように明快な打撃に対してであれば、「対処」ができる。それに対して、顧客が原因の場合見落としがちである。顧客の不満は無言である。唯一の意思表示は、「無視」である。直接のクレームよりもこれが怖い。企業が異常事態を察知するよりも早く事態は悪化する。
2. 顧客との関係性
顧客からの叱責は常に無言である。無言の叱責に気づかなければならない。いつの間にか、少しずつ、少しずつ離れていく。顧客からの叱責は無言でやがて無視に変る。
サイレンとキラー。まるで肝臓病のごとくである。直接のクレームは気づく。常に顧客の声は複数の眼で複数の耳で複数の角度でとらえないといけない。担当営業一人に任せていては、その営業がすべてのリスクを背負うことになる。一対一の関係では相性もある。そこだけに任せていては会社として顧客の声を聴いたことにはならない。このセンテンスは一倉先生の解説の最後には、「お客の無言の叱責がわからず、業績不振の対策が全く見当外れている例を数多く見てきたのだ」と結んでいる。
3. 原因の探究
この原因、ごくごく単純に言うと、「自分のことは意外と自分ではわからない」ということになるのではないであろうか。自分は自分で正しいと思っている。しかし自分は得てして分かっていない部分が必ずある。自分の姿は絶対に自分で見ることができないのである。鏡があるではないか、いや、鏡に映った自分でさえ、左右が逆である。大きな誤解を生む要因である。ビデオにとれば見える。リアルタイムでは見ることはできない。更に自分の発している声すら相手が聞いている音声とは違う。自分では直接骨伝導の振動音を拾っている。空気振動で届けている周りの人が聞いている音声とは大きく違うのである。
複数の眼で見るとは、メンター、コーチのような存在を持つことの大切さに通じる。しかし残念なことに、世の中の中小企業の社長になんともコンサル嫌いが多いことか。外部の目を取り入れることを極端に拒む。それはそれで構わないが、社長を客観的に見て、社長が顧客を本当に理解できているかどうかを診断できる存在が必要であろう。
4. 結語
ゴルフのタイガーウッズにもコーチがいる。ゴルフは特に錯覚を生みやすい性質があるからだという。タイガーウッズは正しいスイングは知っている。知りつくしている。しかし唯一自分でわからないのは、自分がどんな形で振っているかである。顧客の無言の不満に気付くには、自分の眼が正しく見えているかどうかを見てくれる第三者がいてくれるかどうかなのではないであろうか。 了