1. 「赤字会社の共通点は、『無方針』『放任』である」とは
一倉先生は「社長が悪い!」の一声で終わらせてしまうであろうが、この言葉を受け止め、なぜそうなのかを考えてみたい。
もともと無方針で会社を立ち上げることはない。しかし、その方針が未来永劫に守られることもない。守ったほうがいいか悪いかの判断も必要であるし、いつの間にか守らなくなるだけのときもある。
2. 人工衛星と習慣
人工衛星を思い出してみよう。地上から打ち上げていくときには物凄いカロリーでエンジンを回して動力する。軌道に乗ると今度は何もしない。何もしないでそのまま軌道に身を任せる。これに似た現象が会社にも起きる。
創業時には熱い想いがあり、軌道に乗せるためにはシャカリキに頑張ったはずである。その後、軌道に乗ると「習慣」と言う軌道にのる。習慣は良いところと怖いところがある。良いところは、いちいち指示しなくても一定の動作が生まれる。「それでも会社は回る」という事態を担保してくれる。
3. 外部環境としての「放任でない状態」
残念なことに、会社の存在している空間は真空無重力ではない。常に外部環境と接している。それに伴う調整を随時行うことこそが「方針」であり、その外部環境の変化を見極めることこそが「放任でない状態」である。放任は、社員に対する放任と、外部環境に対する方針なのである。
「かつて売れていたから」は、今日売れる理由ではない。ことあるごとに未来の声を聞かなければならない。社名を出して申し訳ないが、コダックが倒産に陥ったのはその最たるものであろう。カメラがデジタル化した時に何が起きるか。その外部環境を見事に見誤った。外部から経営のプロ社長を招聘し、当時世界トップレベルの技術者を有し、それでも将来を見誤った。何とコダックは、富士フィルムよりも社内ではデジタルカメラを開発していたのである。
4. 結語
退任後の社長のコメントは切実であった。ステークホルダーの承認と、古参番頭たちの抵抗勢力との戦いに敗北したというのである。戦いは社外とするべきものである。赤字の原因は「無方針」「放任」であるとするのであれば、それを引き起こす原因は「経験」と「習慣」である。
どうだろう。このふたつに対してネガティブな目で疑うことができるであろうか。通常なかなか難しい。人間経験を度外視した判断はかなり無理が生じる。第三の眼で見るしかない。もしくは同じ者が同じ景色を見続けてはいけないのだ。特に社長は、社長室から同じ景色を毎日、毎日見ていてはいけない。 了