『一倉定の経営心得』を読む その29 バリューチェーンの要諦

1. 「小売店に支払うマージンは『売り場賃貸料』であり、問屋に払うマージンは『販売網使用料』である」とは

 あくまでも場所を借りているに過ぎない。ただのインフラの賃貸料である。不動産賃貸料みたいなものだ。交通量だ。何でないと言いたいかといえば、販売手数料や販売代行料ではないということだからである。「販売するのは自社である」ということを強く訴えているのである。
 前項でバリューチェーンのどこまでを外出し、すなわちアウトソーシングしても良いのかという話に少し触れたが、三枝匡氏が規定していた了見を合わせて紹介したい。三枝氏は「創って・作って・売る」この3つが必ず社内になければならない機能であると言っている。私はこれに一つだけ「考えて」を足して4機能が会社には必ず必要であると考えている。「考えて」はマーケティングの意味を指す。

2. 商品開発・製造・販売

 創ってが「商品開発」、作ってが「製造」、売るが「販売」である。よしんば、それらを外注に出すにしても、魂は自社内にないといけない。iPhoneをアップルは自社工場を持たずに製造している。しかしその管理監督には鉄壁なものがある。絶対に譲り渡してはならない最後の砦といえる。
 それと同じように、自社の商品を最終消費者に販売するチャネルを外部に委託することがあっても、徹底的に管理監督できる立場でないといけない。これはものすごく難しいことである。

3. 販売の苦悩

 メーカーにとって販売の苦労から解放されることくらい有難いことはない。自分たちの得意なモノづくりに集中できるからである。しかしこれは大いなる落とし穴といわざるを得ない。社内に技術はあるかもしれない。情報とお金は外からしか入ってこないのである。マイケルポーターの5Forth分析の中で自社の占める割合の小ささを鑑みれば理解できる。

4. 結語

 買い手の交渉力。まさしくメーカーにとっての流通である。このB to Bで不利な状況を作ると実は倒産の原因にさえなる。「販売」さえできていれば企業は倒産しない。もっと流通に依存することの怖さを知るべきだ。少なくともごく少量でもいい。
必ず自らの手で販売して、どのような苦労とどのような想いがエンドユーザーにあるのか自分の眼で見ておかないことには、まともな指示などできようはずもないのだ。企業の中に、最低限必要な「バリューチェーン」は「考えて・創って・作って・売る」である。この想いで一倉定と三枝匡に私は繋がれる。 了

上部へスクロール