『一倉定の経営心得』を読む その6 事業構造の改革

1. 「経営戦略とは、『戦わずして勝』あるいは『戦わずして優位に立つ』ための事業構造の改革であり、それによって自然に高収益を生むことができるような体制を実現することである」とは

 古くは孫子の兵法・トラディッショナルにはランチェスター戦略:20世紀にはニッチ戦略・2000年ごろにはブルーオーシャン戦略などと名を変え常にテーマ化されてきた。

2. 「戦わずして」の戦いの意味

 最初の「戦わずして」の戦いは何を意味しているのでしょうか。先行者利益のことであると推測できる。敵より早く、市場に飛び込み、敵より多くの得意先を回る、敵のいないうちに収益化を狙う。文章化すると至極単純な話である。
 しかしながら、「敵がいない市場を狙う」この発見がなんとも難しい。個人の天才的なひらめきに期待するのは難しい。日本人は探求することを好む。実直頑固な職人気質である。イノベーティブなことが苦手だ。実際の業務は反復性が高い。さらに業界、自社の中に根付いた常識がはびこっている。これらに抗(あらが)ってこそ「敵がいない市場」が見つかられる。
 会社が「複数人がそれぞれで存在する組織」なのか「それぞれの個人が集合体」として存在しているのかこれが大きく影響する。

3. シナジー効果

 そもそも、各社が天才の存在を期待することは不可能である。
「シナジー」である。シナジーとは、複数の人間が存在した時に影響しあい、発生する効果のことである。2人いるときに1+1=2になるのではなく、1×1×(係数)で足し算以上に効果最大化することである。つまり、そこには、集団として働く人間の関係性。関わり方の決まり、作らないといけない。そしてそれがただの流れ作業の効率化の話だけでなく、「知恵」として作り出される必要がある。
 香港に駐在していた時に、クリエイティブディレクターが、クリエイティブの人間は絶対に一人で仕事をしてはいけないのだ、と言っていた。なぜかというと、一人の時は、一つのIDEAしか出せない。しかし2人の時は3つのIDEAが出せる。私のIDEA、あなたのIDEA、そしてもう一つ、我々のIDEAが出せるはずだ。頭脳労働者は時に、「一人でやったほうが早い」などと口にするときがある。大間違いである。多々段順に調整が面倒なので、その手続きを回避して、一人でこもりたいだけである。

4. 結語

 サルから進化した人間は、集団の動物で、集団行動の中で最大パフォーマンスを発揮する。チームを作り、その中から、協働で新しい知恵を出し続けることこそが、競争優位性を生む。Googleの勝因はいろいろあるとされているが、毎週20個以上の新規事業をローンチするとしていたらしい。こんな数の新規事業を他も作れるわけがない。その一つ一つの制度を問う前に、その圧倒的な数に驚く。内部の人間たちの知的想像力が互いに影響しあい最大のパフォーマンスを発揮しているのであろう。会社はそれが自動発生する機関として整えている。時間の配分。既定の時間の80%の時間が付与された業務をこなす時間である。残りの20%は社内外の関係有り無し問わない人と交わることが可能である。一見何の役に立つの分からないオープンスペース。これらが有効に機能するのである。
 戦いはそのステージであるべきだ。定量的な販売指標に対しての戦いは結局のところ体力勝負である。その世界では、体力の強いものが勝つだけである。ビジネスの勝負は、実はルールを作ったものが勝つのである。ルールを作ったものに対して努力や根性で勝てる日が来るのであろうか。デフォルトを支配する、ビジネスモデルを開発する。それに尽きるのである。 了

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