『一倉定の経営心得』を読む その1 事業経営の本質

1. 「事業経営とは、変転する市場と顧客の要求を見極め、これに合わせてわが社を作り替えることだ」とは

 一倉先生の言葉は、いつもドラッガーと通ずると感じさせる。ドラッガーも、顧客満足を追求するだけではだめだ、顧客創造をし続けなければいけないといっている。その理由として、「顧客は変わる」身体とも。世の中に、コンサルタント嫌い、MBA不要論を唱える人は多くいる。そしてこれらの人たちはたいがい、論理的思考を嫌い、仕事に情緒と私情を持ち込み、経験と根性を価値軸に置く。私はこの方法論に対しては大いに反対である。それでは言葉は悪いが、調教された犬が一番優秀ということになりかねない。私は、MBAはなくてもいいけど、一倉先生の言うことはきちんと聞く必要があるという人の話ならば、それも良しとしよう。なぜならば、先生の言葉の解釈を通じて十分MBAの範囲を網羅することができる。

2. 経営学的な意味合い

 分かりやすいいかにも先生らしい物言いである。この単語全て義務教育の範囲である。日本語のとおり理解しても何の意味もない。
 その意味するところを経営学的に解釈し、それにふさわしい単語を当て、自分なりの解釈を合わせて表現することができうることが必要と思われる。

3. 変転する市場と顧客

 変転する市場と顧客とは何を意味するのか。変転するは、変化する、ということであるが、この主語はPESTである。そして5Forthである。つまりは外部環境。外部環境を見極めろと。そして、その窮境の外部環境は顧客である。PESTは競争ルールを一瞬にして変更させてしまう。
 法令が変れば、たちまち禁止事項になる。2030年ごろから、ガソリン車は不適合製造物に代わるのである。さらに今今であれば、やはり新型コロナであるか。これにより大いに仕事の仕方は変わり、特に会社員の価値基準は変革した。つまり、PESTは外的環境の中でも最もダイナミックに変化する部分である。日常的な業務に一見関係なさそうな距離感を持っているが、その実、効力を発揮するときは津波のごとくである。5Forthも競争環境の仕組み自体を変革させる。
 写真業界はカメラ、フィルムのものであると思われていた。しかし、やがて、電子工業製品に代わり、最後は携帯電話のおまけ機能に収まった。そしてその変化の流れ主役としてよく取りざたされる事例が、「コダック」である。フィルム産業の衰退を読み間違えた巨大戦艦であると。確かにそうである。面白い事実として、コダックは早々に社内でデジタルカメラを製造していた。開発は早くにできていたのだ。しかしコダックは一倉先生の言う、「わが社を作り替えること」ができなかった。なんとも残念な話だ。
 一方、富士フィルムの商魂のたくましさは、フィルムの主原料がコラーゲンであること、これは皮膚細胞の構成物と同じであるというところから社の事業展開を作り替えた。化粧品事業を立ち上げた。人の角質層の厚さと、フィルムのコラーゲンの層の厚さも0.02㎜でほぼ同じらしい。

4. 結語

 外部環境を分析し、内部環境を再編成する。MBA的に見ても全く持って正しい。富士フィルムの化粧品事業後発参入でいろいろ苦労はあったと思うが何とか100億規模にまで成長したらしい。なかなかのものである。 了

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