1. 「社長たるもの、お客様の要求を満たすために、自ら先頭に立って、社内に混乱を巻き起こせ」とは
対境関係。ある種の利害関係。企業にとって、ステークホルダーは実はすべてこの関係に当たる、その最右翼が顧客である。顧客は、起業に対して問題をぶつけてくる相手である。ここでいう問題は広義(:企業の仕事はすべて問題解決である的な考え方)でも、狭義(いわゆる厄介事)でもある。
顧客は金を払って最大限の便益を企業から引き出そうと思っている。企業も表の顔では「顧客第一主義」と言いながら、最終的には顧客から収益を獲得しないと企業は成り立たない。企業とは「ジレンマ」の集合体である。
2. 社内事情と顧客の要求
多くの場合、企業の理屈と顧客の理屈が諸突した場合顧客をも含む合意形成会議などありようはずがない。つまり、社内の人間たちだけで「社内の事情を優先させるか、顧客の要求を採択するか」を協議することになる。放っておけば、社内の事情がどんどん優先される組織なるのは必然である。
なんとかその流れに抗う存在が欲しいのである。
社長の役割はここである。社長がどんどん社内に染まってしまっては、ゆでガエルの始まりだ。スティーブジョブスは、アイフォンの試作品ができた時に、徹底的に顧客満足の目線で検証した。技術的にこれが限界である。これでも頑張って小さくできたほうだ、などという理屈は彼の前では全く通用しない。本当に小さくできないかどうか、試作品のiPhoneを水槽の中に落とす。泡が出る。その泡の分は間違いなく空間があった証拠だ。その分無駄な空間があることになる。この志向性、自社の事情を考慮したものとはとても思えない。彼は、決してエンジニアの味方ではない。まさに敵である。
3. 企業と顧客との関係性
企業と顧客の関係は対等がいいとされている。しかしながら、常に同じタイミングで対等に対価が交換されているかというと自由主義経済ではありえない。本質は、「損して得取れ」なのである。企業が取るべき利は、2番目の取引以降である。返報性の法則である。人は何かをもらう、何かをしてもらったときにそれに対して恩義を感じてお返しをしないと、という気持ちになること。最初に身を削った企業に対してのみ、信用、好意、関心が生まれる。
そしてその返報性を成立させるための施策は多くの場合社内の混乱の上に可能になるのである。
4. 結語
洞察の浅いコンサルタントであれば、「社長は顧客満足のため」に社内の調整をするべきであるという。いうほど簡単ではない。顧客の満足を優先すると、社内の何かで犠牲を払うのである。企業は目先の損出を嫌う。これに対して中長期の目線で企業に対しての利を見出さなければならない。